1. 量から質へ ― 仲介会社選定の軸が変わりつつある
これまでは、買い手データベースの“量”や接点数が仲介会社を選ぶ際の大きな基準とされることが多くありました。しかし、今後は 「どのような提案ができるか」 といった“質”の部分がより(仲介会社を選ぶ上で)重要な軸になる可能性があります。
その背景にあるのが、医療経営環境の大きな変化です。
2. 医療経営の厳しさが買い手の意思決定を鈍らせている
近年、売上や利益が3か年で減少傾向にあるクリニックも多く見られ、さらに診療報酬のマイナス改定など、開業希望者にとってポジティブとは言い難い情報が増えています。このような環境下では、財務数値だけを眺めても、買い手が「本当にここで経営できるのか」と判断しきれず、腹決めにつながりにくい状況が生まれやすくなっています。
3. 財務中心の提案では、買い手の不安に寄り添いきれない現実
しかし実際には、医療経営の構造を深く理解しないまま、財務数値を中心とした説明に終始する仲介会社も存在します。そのような説明では、買い手が承継後のイメージを描きにくく、結果として判断が前に進まない可能性があります。
4. 承継案件に潜む“一筋の光”を見つけ、誠実に提案できるかが鍵
多くの案件には、たとえ数値だけでは見えにくくても、
ポジティブな側面(改善余地・将来性) が潜んでいることがあります。
例えば、
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競合医療機関の動向(高齢の医師が多いため競合が閉院する可能性)
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地域人口の年齢階層変化(顧客となる高齢者の数だけはむしろ右肩上がりになっている可能性)
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サービス拡張の余地(自由診療を取り入れる上でのポテンシャル)
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設備・導線の活かし方
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働き方改革への適応度
など、丁寧に分析すれば「このクリニックなら再成長が見込める可能性がある」点が見つかることもあります。
重要なのは、こうした 一筋の光を誠実に、過度な期待を煽らずに伝えられるか という点です。
5. これからの仲介会社に求められるのは“医療経営に基づく提案力”
仲介会社によっては、医療経営への理解が十分でないまま提案しているケースもありますが、それでは買い手の不安解消にはつながりにくく、承継が止まる可能性があります。
逆に、
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医療経営の構造を理解し
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将来の変化を複数シナリオで捉え
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各案件の魅力を丁寧に言語化し
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誠実に買い手へ提案できる
こうした仲介会社は、買い手の意思決定を支えやすく、承継の成功につながりやすいと言えます。
6. 仲介会社選定の新しい基準として
これからの医業承継においては、
「どれだけ魅力を見いだし、買い手にわかりやすく伝えられるか」
という提案力が、仲介会社選定の重要な軸になっていくと考えられます。
単なるデータベースの量ではなく、
医療を理解し、光を見いだし、誠実に伝えられること。
この能力こそが、不確実な医療経営環境では求められるようになっていくのではないでしょうか。
