医師採用の本当のゴールはどこか―決定後に始まる戦力化の話―
お役立ちコラム■ 医師採用は「決まった瞬間」がゴールではありません
医師の採用が決まり、現場に新しい仲間が加わる。
その瞬間、院内には確かに期待と安堵が生まれます。
けれど本当の勝負は、そこから先にあります。
入職後、半年、1年と時間が経つ中で、
その先生が“医療チームとして根付いていくか”。
言い換えれば、採用はゴールではなく、現場づくりの出発点なのです。
■ 紹介会社の存在感が大きい時代だからこそ
いま医師採用の現場では、人材紹介会社が重要な役割を担っています。
医師不足、地域偏在、働き方の多様化。
こうした構造的な課題の中で、紹介会社のネットワークやスピードが採用を支えているのは事実です。
一方で、その「当たり前」の裏側で、
紹介手数料の高止まりや早期離職の問題が、行政や業界団体でも繰り返し取り上げられています。
財務省の財政制度分科会でも、医療・介護領域での高額手数料や、成果につながらない紹介のあり方に対して、
不適正な事業者が選ばれにくくなる“見える化”の必要性が指摘されています。
「採用コストを払ったのに、戦力化できない」。
このねじれを放置できない、ということです。
※リンク引用:ながら医療経営ニュース 長栄一郎
■ 「高いのにすぐ辞める」構造をどう断つか
紹介経由で採用しても、入職後半年以内に退職してしまうケースは少なくありません。
そのたびに発生する紹介手数料は、病院経営の負担として積み上がります。
そして何より、現場はまた振り出しに戻ってしまう。
だからこそ、重要なのは
「採用できたか」ではなく「定着したか」という視点です。
採用の“数”だけでなく、
入職後の一定期間での退職比率、いわゆる定着率が問われる時代になっています。
実際、国も人材紹介手数料や定着状況の情報公開を進める方向に動き始めており、
医療機関が比較・選択できる環境が整いつつあります。
■ 公開データを「意思決定の武器」にする
人材紹介各社の採用実績や、一定期間内で退職した割合は、公開データから取得可能です。
これは、紹介会社選びを“感覚”から“根拠”へ引き寄せる材料になります。
たとえば、
-
どの領域・地域で強い実績があるのか
-
どれくらいの割合で早期退職が起きているのか
-
ミスマッチ防止のためのプロセスが機能しているのか
こうした点を、数字と運用の両面から見ていく必要があります。
ミスマッチを防ぐという意味で、です。
※リンク引用:人材総合サービスサイト(厚生労働省職業安定局)
■ 定着実績が語る“採用の質”
手前味噌ですが、
ケアネットは2024年の紹介実績において、入職後半年以内の退職は1事例のみでした。
割合で見れば1%台です。
単なる「紹介力」ではなく、
医療機関と医師の相互理解を土台にした“定着まで見据えたマッチング”を意識した成果と認識しています。
採用の価値は、決定通知の瞬間では測れません。
現場で力を発揮し続けてもらって初めて、採用は経営の成果になります。
■ そして、医療機関側にも「定着努力」が求められます
もちろん、ミスマッチの責任を紹介会社だけに置くことはできません。
採用後に離反を起こさないためには、
法人側の受け入れや育成の工夫も欠かせません。
診療方針のすり合わせ、
期待役割の明確化、
オンボーディングやチーム内コミュニケーション。
こうした“入職後の設計”が、定着率を大きく左右します。
■ おわりに:数字の先にあるのは、現場の未来です
医師採用の環境は、これからも簡単には変わりません。
だからこそ、
「どの紹介会社に依頼するか」
「採用後にどう定着させるか」
この2つをセットで考える必要があります。
公開データを見ながら、依頼先を精査する。
同時に、受け入れ側の努力で定着の土台をつくる。
採用の質が、現場の質を決める時代へ。
その一歩を、いま踏み出していきたいところです。
日本クレアス税理士法人 大阪本部 小出圭一氏(税理士・相続診断士)
一般企業の営業職を11年経験した後、税理士業界に転職。 平成28年11月には日本クレアス税理士法人に入社し、税理士登録。 医科・歯科・介護専門の税理士として会計、申告業務の他、 開業支援にも携わっている。 このほかにも、関西学院大学の社会人大学院において、 医療機関事業承継に関する講義を担当するなど、多数の講演活動中。
