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Column コラム 個人診療所の事業承継ポイント

お役立ちコラム 2021年05月19日(水)
2021年05月19日(水)

個人診療所の事業承継ポイント

お役立ちコラム

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、様々な業種の経営状況が一変しました。医療業界においても例外ではありません。来院患者数が減少したため、収益が著しく減少している診療所は少なくありません。しかし、それでも自らの感染リスクに備えながら、また、診療所の経営に対する不安に頭を悩ませながら、地域医療のために診療を続けられる先生方には本当に尊敬の念に堪えません。この場をお借りして、感謝の意を表したいと思います。

この状況下、昨今では医療業界における経営者の高齢化問題も重なり、診療所の廃止や事業承継に関する相談を受ける件数が多くなってきたことも事実です。既にご高齢の先生の中には、このコロナ禍の中、診療所の経営を続けることが体力的にも精神的にも厳しくなられた方もいらっしゃるかもしれません。そこで、このコラムでは個人経営の診療所の事業承継に関する要点を整理したいと思います。

 

―廃業か承継か―

もし、廃業をお考えの先生がおられましたら、一度、引退後のライフプランについて検討してみてください。毎月の生活費を50万円とした場合、1年間の生活費は600万円になります。引退後の生活が20年であれば、必要資金は12,000万円となります。その後、奥様一人の生活が毎月30万円で6年間続くとすれば、さらに2,160万円必要となり、合計14,160万円となります。引退後に海外旅行など、診療所の経営をしながらではできなかったことをしようとお考えの場合には、さらに多額の支出が必要となります。これを年金や貯蓄だけで賄うことに不安を感じられる先生も多いのではないでしょうか。

これに対して事業を承継させた場合には、承継後も非常勤医師として勤めることによって給与をもらうことが可能になるかもしれません。また、テナント開業をされていた診療所を廃業する場合には数百万円単位の原状復帰費用が必要ですが、事業承継される場合は不要となります。土地・建物が自己所有の場合には、それらを譲渡するか、賃貸することによって収入を得ることも可能です。そして何より、診療所を承継することによって、その地域の患者様が行き場を失うことを防ぐことができます。

廃業は、事業承継がうまくいかなかった場合の最終的な判断として、なるべく承継の道を検討していただきたいと思います。

 

―親族内承継―

診療所を廃業するのではなく、承継することを選択された場合、まず「誰に承継するのか」ということを検討する必要があります。ご親族に同じ診療科のドクターがおられる場合には、親族内承継を最初に検討するのが一般的です。この場合には、長年経営してこられた先生のご親族ということで、スタッフや取引先などの関係者からの理解を得やすいと考えられます。ただし、そのご親族が臨床経験を十分に積めてから承継する必要があります。また、経験が十分で、技能的にすばらしい方であったとしても、診察をすることと、診療所の経営をすることは全くの別物です。したがって数年一緒に働いて経営を学んでもらう必要があります。このように、承継の時期は慎重に考えて頂く必要がありますし、時間が掛かることから、なるべく早いうちに承継を検討してご自身のゴールを設定するようにして下さい。

親族内承継する場合には、全ての事業用財産を、その後継者に贈与または相続することになります。これら事業用財産は、個人経営の診療所の場合は、先生の個人的な財産であるため、相続財産に含まれ、遺産分割の対象となります。相続財産は、遺言書がなければ相続人全員による遺産分割協議により分けられることになります。この遺産分割協議は、一人でも反対者がいれば成立しません。つまり、遺言書を書かないまま事業承継された場合には、診療所の事業用財産をめぐって相続争いになる可能性もあるのです。親族内承継をする場合には、必ず遺言書を書くようにして下さい。

 

―第三者承継で得られる譲渡所得とは―

ご親族にドクターがいない場合や、おられたとしても引き継ぐ意思がない場合は、診療所の勤務医やお知り合いのドクター、または仲介業様などにご相談の上、紹介されたドクターに診療所を譲渡することを検討してください。

この場合、事業用財産を譲渡したときの譲渡対価は全て所得税の課税対象となります。このとき、譲渡する資産を保有していた期間が5年以内なら「短期譲渡」に該当することになり、譲渡所得は次の算式で計算されます。

 

譲渡所得=売却金額-(購入金額(*1)+譲渡費用)-50万円(*2

(*1)購入金額からは、減価償却費の累計額が控除されます。また、購入金額が不明の場合には、売却金額の5%として計算されます。

(*2)保有期間が5年を超えている場合は、上記の算式で求めた額の1/2が譲渡所得となります。


こうして求めた譲渡所得の額は、他の所得に加算され、5%から45%までの税率が適用されることになります。

土地・建物を先生が所有しており、それらを譲渡する場合は、土地・建物の譲渡所得の額の算式は上と同じですが、他の所得とは分離して税率が適用されます。保有期間が5年を超えている場合は税率は15%となります。

事業用財産以外に考慮すべきものとして、営業権というものがあります。営業権とは決算書には表記されない医院の価値です。例えば新規開業して一から診療所経営を始めた場合には、地域における信用や来院患者様を得るために時間もコストもかかります。しかし事業承継で開業した場合には、承継時からある程度の来院患者様を見込むことができます。そのメリットを金銭価値に置き換えて評価したものが営業権です。この営業権の対価は雑所得として、他の所得に加算されることになります。


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―個人の場合は退職金という概念がない―

一般的に法人の役員が退職する際は、役員退職金が会社から支給されます。しかし個人経営の診療所の場合は、診療所と院長が同一人格であるため、退職金という概念がありません。承継前に診療所の口座から退職金としてお金を引き出しても、それは単純に先生個人の口座からお金を引き出しただけにすぎません。また、承継後に後継者様の口座から退職金としてお金が支払われれば、それは金銭の贈与となり、多額の贈与税を納める必要があります。

ただし、小規模企業共済の掛金を支払われている場合は、承継が完了し、税務署に個人事業の廃止届を提出したら共済金が受取れます。共済金を一括で受取った場合は、その受け取った共済金は退職所得として所得の計算がされます。分割で受取った場合は公的年金と同等の扱いになり、雑所得として所得が計算されます。いずれも、所得税額の計算上、他の所得よりも有利な扱いとなります。

現在、医療業界の高齢化が進んでいます。60才以上の診療所開設者は、全体の半数を大きく超えている上、医療業界では承継を検討する時期が遅れる傾向にあると言われています。しかし事業承継は、慎重に、時間を掛けて検討する必要があります。だからこそ、なるべく早いうちにご自身のゴールを考えてみるようにして下さい。お子様が医学部に進学するのかしないのかによっても、方向性が見えてくるはずです。そうすれば次はリタイア後の生活を充実させるために必要な資金についても考えを巡らせてみましょう。当分は事業承継する必要がない先生方も、是非、今からハッピーリタイアのための事業承継計画を検討してみてください。





日本クレアス税理士法人 大阪本部 小出圭一氏(税理士・相続診断士)

一般企業の営業職を11年経験した後、税理士業界に転職。 平成28年11月には日本クレアス税理士法人に入社し、税理士登録。 医科・歯科・介護専門の税理士として会計、申告業務の他、 開業支援にも携わっている。 このほかにも、関西学院大学の社会人大学院において、 医療機関事業承継に関する講義を担当するなど、多数の講演活動中。

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