医業承継で実際に起きたトラブル事例集 ― 「話がまとまった後」に起こる落とし穴 ―
お役立ちコラム■ はじめに
医業承継は、医院の「経営権」だけでなく、「不動産・人との信頼関係」などが複雑に絡み合うプロジェクトです。
多くのケースでは、候補者が決まってからが本当のスタート。
順調に進んでいるように見えても、最後の局面で思わぬトラブルが起こることがあります。
ここでは、実際の承継支援現場で発生した3つのトラブルを紹介し、
その背景と防止策を解説します。
ケース①:大家の“相続問題”で承継が止まる
状況:後継医師候補が見つかり、承継の方向性が固まった段階で、
テナントの大家に報告したところ、「自分の相続手続き中で契約の変更ができない」と言われ、承継が中断。
医院が賃貸物件に入っている場合、承継には必ず大家の同意が必要です。
しかし、多くの先生は「長年の関係だから問題ないだろう」と考えがちです。
特に、
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大家が高齢である
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所有者が複数名(家族や法人など)
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借地権付き建物である
場合は注意が必要です。
対策:
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承継検討の初期段階(タイミングは医業承継仲介会社へ相談した上)で、賃貸契約内容・更新時期・相続の有無を確認。
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不動産契約と医業承継契約を別プロセスで並行管理する。
ケース②:最終契約直前に“売上減少”で交渉が白紙に
状況:最終契約直前に最新の決算書が出てきたところ、
売上が想定より大幅に減少。買い手の意欲が低下し、契約が白紙に。
医業承継では、過去3期分の決算データを基に価格交渉を行うのが一般的ですが、
“直近の動き”を軽視すると信頼が損なわれます。
特にコロナ禍以降は、診療報酬の改定も重なり、前年比で収益が下がっているケースが多いため注意が必要です。
対策:
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最新期の速報値や月次データ(残高試算表)を早めに共有。
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減収が一時的要因(スタッフ退職・設備更新など)なら理由を言語化。
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決算確定を待たずに、売上トレンドグラフなどで誠実に開示する。
ケース③:スタッフへの説明不足で不安が拡大
状況:承継の話を秘密にしていたが、噂でスタッフに広まり、
「自分たちは解雇されるのでは」と不安が広がり、数名が退職。
承継は「患者の継承」であると同時に、「組織の継承」でもあります。
医院の“空気(患者の継続通院に繋がる目に見えない力)”を支えているのはスタッフでもあり、彼女らが不安を感じると、患者にも動揺が伝わります。
対策:
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医業承継にかかる情報は秘密保持契約書を締結した人にのみ共有。(情報漏洩を防ぐ)
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医業承継にかかる譲渡条件に「雇用継続」を加える。
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コアなスタッフには事前に相談し、承継への協力体制を整える。
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スタッフへの説明会の際には「医院が大切にしてきた点は変わらない」「患者さんを守る」など安心のメッセージを明確に伝える。(後継医師と相談し、慎重にメッセージづくりをしてスタッフに伝える)
■ まとめ:トラブルの多くは“共有の遅れ”から生じる
医業承継のトラブルの大半は、契約内容の不備ではなく、情報共有の遅れが原因です。
不動産、財務情報、スタッフ、それぞれの関係者に対して、
「いつ、どこまで、どの順番で話すか」を戦略的に設計することが重要です。
承継は、経営の終わりではなく、医院の“再出発”。
関係者全員が安心して参加できるよう、準備と段階的な共有を心がけましょう。
ケアネット医業承継チーム
ケアネットの医業承継チームは、業界経験が長いベテランアドバイザーを中心に、 税務や法務について豊富な専門知識を有する専門コンサルタント、幅広いサポート体制をもつサポートメンバーで構成されております。 専門性の高いメンバーが複数人で関わるチーム制を採用することで、お客様にご満足いただけるサポートや運用体制をご用意しております。 診療所の医業承継に特化をした、全国でも数少ない医業承継チームのノウハウで、開業医の先生方の『後継者問題』の解決に寄与できるよう、誠心誠意サポートさせていただきます。
