Column コラム 医療法人の事業承継ポイント

お役立ちコラム 2021年05月19日(水)
2021年05月19日(水)

医療法人の事業承継ポイント

お役立ちコラム

現在、医療現場を取り巻く環境は、新型コロナウィルスの感染拡大により大きな岐路にあります。特定の診療科ではその影響は甚大であり医療機関の経営面にも深刻なダメージを与えております。国等から喫緊の事業用資金調達の優遇措置があり、資金不足による倒産はまだ他業種に比べれば少ないですが、今後も来院患者数等の低迷が続けば体力のもたない医療機関も多く出てくることとなるでしょう。

そういった現状や、そもそも医療機関に内在していた経営者の高齢化問題も重なり、事業の廃止や承継に関しての相談を昨年来多数受けるようになりました。そこで、このコラムでは医療機関の中でも医療法人に絞って事業承継の要点をご説明いたします。

経過措置型医療法人(出資持分あり医療法人)の場合

医療法人は大きく、持分の定めのある経過措置型医療法人と、持分の定めのない医療法人に分けることができます。

まずは、医療法人の中でも大部分を占める持分の定めのある経過措置型医療法人の特徴をご説明いたします。平成1941日以降は設立できなくなった種類の法人で、大きな特徴は設立時、又は、追加出資時に提供された出資金に対応する持分があり、内部留保の増減に応じてその持分が変動するため、出資者の財産価値が自身の出資金額以上になりうる法人です。出資者の相続発生時等に多額の払い戻し請求が行われるリスクを抱えるこの経過措置型医療法人は、医療の公益性・非営利性という社会的役割の観点や、医療法人の永続性確保のため、出資持分のない医療法人へ移行することが求められているため、この呼称で呼ばれています。

さて、この経過措置型医療法人の場合、事業承継の方法は一般の株式会社の事業承継とよく似ています。現在の出資者にその持分に相当する金額を支払うことで出資持分を買い取る方法です。一般法人では、会社の支配権を確保するため、例えば過半数を超える株式数の取得を目的として株式の買い取りが行われますが、医療法人では、全ての出資持分を新オーナーが買い取ることが一般的です。

また、医療法人の最高意思決定者である社員も社員総会を経て入れ替わっていくことになります。医療法人の場合、出資者や社員はオーナーの身内であることが多いため、そのような出資者や社員を残したままでは事業承継後の新オーナーの医療機関の運営に支障があるためです。

ここで問題となるのはその買取金額です。どうやってその金額を定めるのでしょうか。基本的には、その医療法人の直近の決算期の貸借対照表の勘定科目を時価に補正するという方法で決定されます。例えば、貸借対照表に記載されている建物勘定の金額は、減価償却後の簿価ですが、これを固定資産税評価額に補正します。(再建築価格に基づく方法や、不動産鑑定士に評価を依頼する場合もあります。)また、土地勘定の金額は、取得時から変わらず取得価格のまま貸借対照表に記載されていますので、現在の不動産価値に補正します。(公示価額や路線価を利用する方法などがあります)また、将来従業員に支払う退職金を見積もって、その見積額を貸借対照表の負債に計上していない医療法人の場合は、買い取り時点での退職金規定に基づいた退職金相当額を負債として補正する必要もあります。

このように貸借対照表のすべての勘定科目を時価に補正して、補正後の総資産金額から総負債金額を差し引いた金額が、その買い取り時点での法人の金額的価値を現す純資産金額となります。この純資産金額に、いわゆるのれん(営業権とも言います)を加味した金額のうち、出資持分に応じた金額を各出資者に支払うことで出資持分を買い取ることになります。ここで、のれんの金額をいかに算定するかが重要となってきます。これにはいろいろな考え方があり、年間利益の2~3年分とする方法や、現在の来院患者数と診療単価から算定する方法などがあります。弊社では図1に示すような営業権の算定方法を用いる場合もあります。医療法人が承継されオーナーが変わることによって現在の患者数が80%に減少すると想定し、同じ場所で承継ではなく新規に開業すると仮定して患者数がその80%の人数になるまでに要する期間を1年と定めた場合、新規開業ではなく承継することによって新オーナーが得ることができる収入の見込み増加額は

 

算式 現状の月間収入×80%×12ヶ月÷24.8カ月

 

となります。この算定方法によると、のれんは現状の月間収入の4~5ヶ月分となります。

こうして算出された純資産金額とのれんを合計した金額が、全ての出資持分の買取金額となりますが、評価の方法は一つではありませんし、金額が定まったからといって必ずその金額で買い取る必要もありません。あくまでも目安の一つであり、前オーナーと新オーナーの交渉のもと買取金額は決定されます。この持分の定めのある医療法人の事業承継における問題点は、一般的に法人設立から長い期間にわたって経営をされているため、想定外に純資産金額が大きくなっていることが多く、結果として買取金額が大きくなることです。この場合、新オーナーは自己資金で用意できない部分について融資を受ける必要が出てきますが、金融機関からすると事業の実績のない新オーナー個人に多額の融資をすることが困難なケースもあります。この場合、新オーナーは、従来の法人の出資額が1,000万円であればそれだけを出資して、出資分の評価額に相当する金額の借入を法人が行い、それを退職金として旧オーナーに支払う方法がとられることもあります。


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持分の定めのない医療法人の場合

次に、持分の定めのない医療法人の場合を説明いたします。この医療法人の場合は、前述のように出資持分はありませんので、それを買い取るということはできません。よって、前オーナーは、先ほどの買取金額と同等の役員退職金を医療法人から支払を受けるという方法がとられます。しかし、税務上役員退職金は青天井に認められるわけではありません。一般的に役員退職金は下記の算式によって計算されます。

 

算式 退職時の最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率=役員退職金の適正額

 

この適正な役員退職金の金額内に買取金額が収まる場合は問題ないのですが、そうでない場合も発生します。役員退職金を適正額まで支給しても買取金額に届かず、前オーナーへ支払うべき金額が残ってしまう場合です。残ってしまった金額は、事業承継後も、前オーナーに非常勤理事や、非常勤勤務医として医療法人に残っていただき、役員報酬や給与としてお支払いを続けていきます。ただし、この場合は理事としての役割や診療実態が必要となりますのでご注意ください。

また、この役員退職金は医療法人から支出されます。退職金に見合った金額を医療法人が持ち合わせていない場合は金融機関からの融資に頼ることとなります。この場合、医療法人のこれまでの診療実績に応じて融資が決定され、持分の定めのある医療法人の場合と同様に個人への融資ではないため、金融機関からの融資も受けやすくなります。

以上のように、医療法人の事業承継対価の支払方法は、大きく分けて2種類、出資持分を買いとるか、退職金として支払いをするかのどちらかとなります。出資持分の買取は、一般法人の場合の株式取得と類似しておりますが、出資持分の定めのない医療法人の場合は全く違った考え方となります。

また、純資産金額算定の過程において時価に補正する際には、過去の診療についての返戻リスクなど医療機関特有の注意すべき点もあり、医療法人の合併、吸収、分割、事業譲渡等の手法も多様ですので、MAの仲介の依頼やFA契約(ファイナンシャルアドバイザー)をされる際は我々のように医療に精通している専門家へ依頼することをお勧めします。


最後に、医療法人の事業承継は、一般法人の場合とは、社会的意義、オーナーの想いの強さにも違いがあり、あまりに強い想いがあるがゆえに上手くいかなかった事業承継も多くあります。地域医療の維持や発展、患者様の健康管理、医療スタッフの安心できる雇用の継続等多くのかけがえのないものをしっかりと新オーナーに繋ぐことこそ、事業承継の大きな意義であると思います。


日本クレアス税理士法人 大阪本部 小出圭一氏(税理士・相続診断士)

一般企業の営業職を11年経験した後、税理士業界に転職。 平成28年11月には日本クレアス税理士法人に入社し、税理士登録。 医科・歯科・介護専門の税理士として会計、申告業務の他、 開業支援にも携わっている。 このほかにも、関西学院大学の社会人大学院において、 医療機関事業承継に関する講義を担当するなど、多数の講演活動中。

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